『哲学と人類』紹介|内容要約と感想・考察、次読むべき著作は?

『哲学と人類』紹介|内容要約と感想・考察、次読むべき著作は?

概要

『フランス現代思想史』など、専門に拘らず、簡明な文体で幅広い読者層から支持を得ている哲学者、岡本裕一朗の2021年の著作。本書はメディアや技術に焦点を当てて、哲学の光のもとで人類史を読み解こうとする画期的な試みである。新たな哲学の可能性がここに開かれる。

岡本裕一朗『哲学と人類 ソクラテスからカント、21世紀の思想家まで』文藝春秋、2022年。

内容(目次)要約

 四部八章構成。

 第一部「なぜ21世紀の哲学者は「テクノロジー」について考えるのか」では、21世紀における新たな「テクノロジー」の到来(ex. 人工知能、バイオテクノロジー)とそれについて語ることの意義が明らかにされる。人間が用いた新たな「テクノロジー」は、確実に人間(ホモ・サピエンス)という存在を絶滅に向かわせる。それではポストヒューマンはどうなるのか。そのような社会とはどのような社会なのか。ここでは遺伝子格差社会などの例を出しながら、その未来予想図について考察している。

 第二部「人類史の起源と「メディア」の誕生」では、人類の誕生(ホモ・サピエンス)がメディアとの関係で考察される。そこでは人間としての弱さとメディアとの関係が明らかにされる。

 第三部「「文字」と爆発的進化」では、古代ギリシアからドイツ観念論時代までの哲学史がメディアの発達という観点から考察される。音声メディアから文字メディアへ、そして書物や大学、活版印刷といったメディアの意義が人類史哲学史のなかで明らかにされる。

 第四部「技術メディアの時代へ」では、ドイツ観念論以後のマルクス、ニーチェ、フロイトの時代から20世紀マスメディアの時代までのメディアの変遷と人類史との関わりが考察される。

第二部から第四部までは人類史である。第四部で20世紀までのメディアの人類史が語られることとなり、そこで21世紀のメディア論である第一部と接続する構成となっている。

考察・感想:おすすめ&面白い点

 メディア史であると同時に人類史であり哲学史でもあるという非常にバランスの取れた著作である。これを読むとメディアの発展史はもちろんのこと、そのメディアの発展史の中で哲学史がどのように切り分けられるのか、今後人類はどのようになっていくのかなど、新たな視座が得られて非常に価値が高い。

 個人的に勉強になった点は主に三点。一つ目がホモ・サピエンスは弱かったからこそ、言語と道具の使用技術を発展させて生き残ったということ。全然知らなかったのだが、最近の研究ではホモ・サピエンスは、ネアンデルタール人と比べて脳の容量も少なく、体も華奢だったらしい。つまり、ホモ・サピエンスは能力的に優れていたわけではなく、劣っていたので道具を必要とし、結果として道具の発達を必要としなかったネアンデルタール人の方が劣ってしまったということらしい。コミュニーケーションの発達もそういうことらしい。満ち足りていないところから驚異的な発展をみせるのは歴史的にもそうだし教訓的にも知っていることだが、ホモ・サピエンスも実はその例に漏れないらしい。

 二つ目はホメロスの話である。ホメロスといえば『イリアス』『オデュッセイア』の作者として知られているが、ホメロスが生きていたとされる紀元前8世紀ごろの人で、実はこの頃は文字はまだ形成されていない。ギリシア文字が作られたのはその後だとされているのである。また、ホメロス複数人説なども有力なようです。つまり、ホメロスの作品は複数人による口誦詩である可能性があるということである。すると、ホメロスは、実在しない可能性があるというのは面白い話でした。

 三つ目はカントは人間の理性に、フィヒテやヘーゲルは民族精神に訴えることが一つの傾向になったという指摘です。ドイツ観念論というと理性絶対主義みたいに思われますが、この本では人間理性の普遍性を求める姿勢が18世紀末のカントで終わるとされ、ヘーゲルの時代になると民族精神を基盤とした国民国家の構想が強く打ち出されると主張されています。たしかに、言われてみれば、ナポレオンを見て、「世界精神が馬に乗って通る」と言ったのはヘーゲルですが、カントからしてみればそんなことありえないでしょう。理性は現実化するわけないのですから。ヘーゲルは逆に理性的なものは現実的でもあるので、現実のどこかに理性的なものがあるわけですね。それが「国家」だったりするわけです。そう考えると理性の扱い方がカントからヘーゲルになると変わってくるという言い方も成り立つと思います。勉強になりました。

他にも言語の発展史におけるトークン仮説や、本の誕生による作者性や著作権の意識、すなわち個人主義の醸成なども面白い指摘で勉強になりました。

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