『シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』ワトソンを問い詰めるホームズ|あらすじ解説|内容考察|感想

『シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』ワトソンを問い詰めるホームズ|あらすじ解説|内容考察|感想

概要

 『シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』は、2011年に公開されたイギリス・アメリカのアクション探偵映画。監督はガイ・リッチー。

 『シャーロック・ホームズ』の続編である。ワトソン役のジュード・ロウはスピルバーグの『A.I.』やウディ・アレンの『レイニー・デイ・イン・ニューヨーク』に、ロバート・ダウニー・Jrは『ゾディアック』に出演している。

 アクション映画はほかに『ジュラシック・ワールド/炎の王国』『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』『3時10分、決断の時』がおすすめである。

登場人物

シャーロック・ホームズ(ロバート・ダウニー・Jr):私立探偵。頭脳明晰。武術も強い。モリアーティとの戦いに奮闘する。

ジョン・ワトソン(ジュード・ロウ):外科医。第二次アフガン戦争で軍医として従軍。

ジェームズ・モリアーティ(ジャレッド・ハリス):ホームズの最大の宿敵。大学で物理学を教える教授。裏では犯罪を計画したり、戦争に乗じて儲けようと企んでいる。

マダム・シムザ・ヘロン(ノオミ・ラパス):占い師。反乱軍の闘士を兄にもつ。

アイリーン・アドラー (レイチェル・マクアダムス):シャーロックの敵であり恋い焦がれる相手。モリアーティに脅されながら仕事をしている。

メアリー・モースタン(ケリー・ライリー):ワトスンの結婚相手。新婚旅行中にシャーロックによって橋から落とされる。

あらすじ

 ホフマンスタール医師のもとに向かう途中のアイリーン・アドラーと接触したホームズは、尾行がいることを忠告するがそれはアイリーンの仲間だった。ホームズは敵をなんなく倒すと、ホフマンスタール医師にブツを渡そうとするアイリーンに、それは爆弾であることを告げる。

 機転を利かせて手渡された手紙を盗み爆弾を処理したが、目を離した隙にホフマンスタール医師は何者かにやられてしまう。手紙を盗まれたアイリーンは、この失態によってモリアーティに殺害される。

 ワトソンがホームズ宅に訪れると、ホームズは各地で発生した事件の黒幕がモリアーティであることと告げる。ホームズはワトソンに心肺蘇生させる特効薬を結婚祝いで与えて、結婚の前夜祭に向かう。

 そこにはホームズの兄マイクロフトのみで友人はおらず、怒ったワトソンはカードで遊ぶ。ホームズがアイリーンから盗んだ手紙の宛先であるマダム・シムザのもとに行くと、暗殺者が部屋にいることに気づき撃退する。

 酔っぱらったワトソンを式場に連れていき結婚式が執り行われる。ホームズはモリアーティの使いの伝言で、モリアーティのいる大学に向かう。モリアーティはワトソンとその妻を危害を加えること、アイリーンが死んだことを告げる。

 ワトソンとメアリーの新婚旅行中、モリアーティの手下が襲いかかってくるが、女装したホームズが現れワトソンとともに敵を倒す。コンビを復活したホームズとワトソンはシムザに会い、兄レネイが所属するアナキストのアジトに向かうが、情報を聞き出す前にリーダーが自殺する。爆弾を仕掛けたと推理したホームズであったが、一歩間に合わず爆発事件に乗じた武器商人の暗殺を許してしまう。

 武器工場に潜入するが、ホームズはモリアーティに捕まる。そこで重傷を負うがワトソンに救出される。シムザたちの協力で脱出するが、追手によって重傷を負う。

 最後の戦いの場、和平会議に各国の要人と、ホームズたち、マイクロフト、モリアーティが集う。レネイは整形しているため手術痕があると推理し本人を発見、要人暗殺を阻止するが、レネイはモラン大佐に暗殺される。

 バルコニーでホームズとモリアーティはチェスで戦う。ホームズはモリアーティの野望を暴き、資産を写した赤手帳を盗んでいたことを告げる。チェスにも負けたモリアーティは怒りに震える。戦いのシミュレーション、シャドウゲームをしても勝てないと悟ったホームズは、モリアーティを掴みともに滝に落ちる。

 事件後、ワトソンは『最後の事件』を執筆する。席を外した隙に、迷彩服に隠れたホームズが現れ、「The End」に「?」をつけるのだった。

解説

シャドウゲームの複数の意味

 本作も前作『シャーロック・ホームズ』同様、ホームズとワトソンのイチャイチャとアクションの重視という方針で一貫している。

 ホームズとワトソンをどうしてもワチャワチャさせたいようで、ワトソンとメアリーとの新婚旅行はホームズがメアリーを川に落とすことで、ワトソンとホームズとの新婚旅行に様変わりする。これにはホームズがメアリーに対抗するために女装した甲斐があったというもので、その後も「新婚旅行よりこっちのほうがいいだろう?」と質問攻めにしてみたりワトソンとホームズのペアでダンスをしたりとイチャイチャが止まらない。

 もう一つの特徴であるアクションのほうも、前作と比べてより洗練された印象だ。特に、雑木林で追ってから逃げるシーンは必見である。動きが最も速い場面で多用されるスローモーションと、そのときに横方向に動くカメラは特徴的である。スローモーションとは情報量の圧縮であるともいえる。動作をスローにすると、速すぎて見逃してしまうような僅かな動作を認識できるようになり、その認識は本来のスピードに戻したときを想像することで驚きにかわる。それによって生み出される臨場感に加えて、進行方向に垂直に動くカメラは、共時的な次元を示しその戦いのスケールの大きさを写すことで、もう一つの臨場感を与えている。

 題名の「シャドウゲーム」が示すように、ホームズとモリアーティの間では多くの「影の戦い」が行われている。戦闘の脳内シミュレーションもその一つだ。勝利までの道筋を示すシミュレーションと、それ通りに進む戦闘は、そのまま探偵の推理の比喩である。時には横槍が入ってシミュレーション通りには進まないこともあるが、基本的には相手の情報(証拠)から勝利(犯人)を見つけ出せる。これは決してホームズの専売特許ではないという。探偵の特殊能力と思われたこのシミュレーションは、犯人であるモリアーティも得意とするものであったのだ。探偵的視点をもったモリアーティが、世紀の探偵であるホームズの、最大の敵であることも肯ける。

 「影の戦い」とはモリアーティの表の顔である大学教授と、ホームズの肩書きである私立探偵の戦いでもあり、関係のない事件の数々に意図を見出すことでもあり、和平交渉の裏で繰り広げられる静かな戦いのことでもある。さらにもう一つ挙げると、観客から隠れた場所(影)での戦いでもあるのだ。モリアーティがホームズの口元に耳を近づける場面、すぐに忘れてしまうのだが初見のときにはうっすらと感じる違和感の正体こそが、モリアーティの影に隠れた場所で赤手帳をめぐる影の戦いが繰り広げられている。したがって観客はこの違和感に注意を向けるべきだった(と後になって思う)。ホームズに同一化するのではなく、この事件を一人の探偵として観ることが求められている。

考察・感想

あのホームズの寂しそうな眼差しに同一化する

 探偵小説において、伝統的に内面が排除されてきた。そのためプレ近代小説といわれたり、一部ではギリシャ悲劇や歌舞伎に起源や類似性があるなどと言われたりしてきたのである。なぜ内面は邪魔なのか。それは証拠から犯人を推理している場面を想定してみればわかりやすい。紙に染み付いたカビの匂いを嗅いで、「ジメジメした場所に保管されていたかもしれないが、チーズ製造所の地下ということも考えられる。どっちらだろうと悩む。あるいは、海の近くということもあるのだろうか。わからない。他の手がかりから絞り込もうかと思う。」、などと書かれたら興醒めであることは一目瞭然だ。証拠は平板に提示され、それを推理する主体の悩みは描かれることがない。もし現れるとしたら、推理を公表したとき、そのときの回想の場面でしかあり得ない。

 ところが本作のホームズは内面しかない。それもワトソンへの愛情が極めて強く、メアリーへの嫉妬が抑えられない。ワトソンの前に女装をして現れ、取っ組み合いの場面は性交渉を想起させる。このときホームズは二つの主体に分裂している。一つは事件に取り組む探偵の主体。こちらには内面がない。もう一つはワトソンに向かうヒステリーの主体。こちらには内面しかない。

 ヒステリーとは問いかける主体のことである。ヒステリー者は真理を求めているが、その与えられた答えに満足することはない。ホームズはワトソンとタッグを組んで捜査をする瞬間に「新婚旅行とどっちがいい?」と迫るのだが、もちろんこれに答えはないし、ワトソンが答えることはない。

 他人の幸せを祝えないのはクズだ、というのが一般的な感性らしい。その観点からいえば、ホームズのワトソンへの態度も、メアリーを橋から突き落としたのも、クズのそれである。確かに、ホームズみたいな人物が実際にいたら嫌悪するかもしれない。結婚を妨害し、気づいた新婚旅行の相手が入れ替わっているなんてことがあったら、流石にいやになるだろう。

 だが、それでも我々が感情移入するのは、ホームズだ。これまで幾多の人が、連れがいるからというセリフに、涙を流したことか。お喋りでも飲み会でも、一言でぬけることのできる魔法の言葉。しかし連れがいようがいまいが、それが帰ることの正統性を裏付けない事は明らかだ。それでもこの非論理的な発言が受け入れられているのは、この非論理性が愛の次元に属しているからではなく、それが許されるという恋愛のコードが蔓延しているからである。

 「連れがいるから」と言って帰るひとの後ろ姿をみるわれわれの悲痛な眼差しは、メアリーとワトソンの結婚式をアーチの下で眺めるホームズのそれと完全に一致している。この恋愛のコードを否定すること、つまり結婚自体を破壊することは、もはや許されない。しかしポッと出のメアリーに、ワトソンと行動を共にした時間の重さが負けることはないと確信しているホームズは、アーチをくぐることで結婚という制度の外にでて再起をはかる。ホームズの戦いは制度の中にはないのだ。そういう気分で観ると、メアリーを川に突き落としたのも、仕方がなかったという気分になる。とはいえ、メアリーからすればたまったものではない。

 ほかに、マイクロフトはメアリーの前で全裸なのは、セクハラではなくて女性に無頓着であることを窺わせる。またホームズのワトソンへの愛情は一方向ではなく、双方向である。あと、ワトソンとホームズの性交渉を思わせる取っ組み合いはホームズを上にして行われたが、ホームズとモリアーティの似たような取っ組み合いはモリアーティを上にして行われる。釣り師と魚の立場の逆転は、ホームズとモリアーティの倒錯した共依存関係を示唆している。

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