『スプリット』 感想|あらすじ解説|内容考察|多重人格を演じ分ける

『スプリット』 感想|あらすじ解説|内容考察|多重人格を演じ分ける

概要

 『スプリット』は、2016年のアメリカ映画。監督はM・ナイト・シャマラン。主演はジェームズ・マカヴォイ。

 解離性同一性障害の犯人による女子高生誘拐事件を描く。

 映画『アンブレイカブル』と共通の世界であることが明かされる。続編は『ミスター・ガラス』。

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登場人物

ケビン・ウェンデル・クラム(ジェームズ・マカヴォイ):多重人格者。23の人格を持つ。母親からの虐待が原因で解離性同一性障害になる。24番目の人格は「ビースト」と呼ばれ、デニスを含めたわずかな人格にしか知られていない。
ケビン:本来の人格。2014年9月18日以降、ほかの人格に乗っ取られてしまい記憶がない。
バリー:主導権を握る人格。アートを得意とし、フレッチャーの元に通う。
デニス:誘拐した人格。潔癖。
パトリシア:女性人格。デニスと共謀している。
ヘドウィグ:9歳の子供の人格。「照明」を自由に使える。デニスと共謀している。
ビースト:24番目の人格。強靭な肉体を持つ。車両基地にいるとされる。

ケイシー・クック(アニャ・テイラー=ジョイ):女子高生。クラスでは孤立した存在。叔父から性的虐待を受けている。子供の頃に父から狩りの仕方を学んでいた。ク

カレン・フレッチャー(ベティ・バックリー):精神科医。解離性同一性障害を研究する。ケビンの担当医。

クレア・ブノワ(ヘイリー・ルー・リチャードソン):女子高生。クラスの人気者で、ケイシーを誕生パーティーに呼んだ。

マルシア(ジェシカ・スーラ):女子高生:クレアの親友。

デヴィッド・ダン(ブルース・ウィリス):『アンブレイカブル』の主人公。

あらすじ

 叔父から性的虐待を受けていたケイシーは、父なきあと叔父に引き取られ不遇な人生を送っていた。学校では仲間と馴染めず、一人でいることを好むようになっていた。そんなある日、同級生のクレアとマルシアの誘いで一緒に帰ることになる。クレアの親の車に乗り込もうとしたその時、突然誘拐される。

 三人を監禁した誘拐犯は、現れる度に違う人格になっていた。子供の人格であるヘドウィグが現れたとき、ケイシーは「秘密」を教えると唆し、天井に抜け道があることを発見する。クレアは脱出するも、途中で冷静な性格であるデニスに見つかり、別の部屋に監禁される。マルシアも女性の人格であるパトリシアから逃げようとするが、捕まってしまい三人とも別の部屋に移動させられる。

 誘拐犯の通常の人格であるケビンは精神科医のフレッチャー医師のもとに通っていた。フレッチャーは解離性同一性障害の研究をしていて、ケビンの面倒をみていた。ケビンのなかでも主導権を握り芸術を好むバリーは、デニスに乗っ取られていて、そのことにフレッチャーは気づく。デニスの目的は、ケビンを守ることであり、そのために24番目の人格である「ビースト」を出現させることであった。

 ケイシーは一人のうちに脱出を試みるも失敗する。その夜、ケビンから「至急会いたい」というメールが届いたフッレッチャーは、ケビンの住居に向かう。そこでデニスは、再び「ビースト」の必要性を説くが、フレッチャーに否定される。

 異変を感じたフレッチャーは、部屋を探索すると、誘拐されたクレアを発見する。しかし、すぐデニスに見つかり眠らされる。デニスは外にある車両の中で「ビースト」に人格をあけわたし、超人的な身体能力を得る。

 戻ってきたビーストは、フレッチャーを殺害。ケイシーは鍵を壊して脱出するも、マルシアの死体と襲われているクレアを発見する。フレッチャーのメモ書きをヒントに、ケビンの本名を呼ぶことでケビンの人格が戻ってくるが、彼はショットガンの場所を教えた後、再びビーストに乗っ取られる。襲われるケイシーは、ビーストに二発弾丸を打ち込む。破れた服の奥に虐待の傷痕をみたビーストは、ケイシーを純粋な者といい去っていく。警察に保護されたケイシーは、未だに暴行をはたらく叔父の元に戻されるのだった。

 誘拐事件はニュースになり、ビーストの存在が報道される。そのニュースを、『アンブレイカブル』のデヴィッド・ダンが見ていたのだった。

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解説

多重人格を演じ分けるジェームズ・マカヴォイ

 本作は、解離性同一障害、俗に言う多重人格者が、三人の女子高生を誘拐する話だ。

 多重人格と聞いて、二つや三つという生半可な数字を想定してはいけない。多重人格者ケビンは24個の人格を持ち合わせているのである。解離性同一障害というのは、過去のトラウマが引き金になって、人格が分離し、そのまま成長した状態をいう。例えば、極めてショッキングなことが起きたときに、気絶をするのも「解離」の一種である。とはいえこの場合は「解離」の正常な範囲におさまり、障害という診断にはならない。

 昔に「アンビリーバボー」というテレビ番組で取り上げられていたのをうっすらと記憶していて、当時は信じられないなあと思っていたのだが、どうやら本当にあることのようだ。人格を分離しなくてはならないほどのショックはどれほどのものなのか、想像をするのも難しい。

 ケビンは24個の人格をもっていて、これを身振りや口調だけで上手に表現できるのは、演じるジェームズ・マカヴォイの技術の賜物である。ジェームズ・マカヴォイといえば、『ナルニア国物語』でタムナスというケンタウルスを演じたり、イアン・マキューアンの『贖罪』を映画化した『つぐない』でロビー・ターナー役を演じて英国アカデミー賞の主演男優賞にノミネートという実績もある。そんな彼は、子供人格のヘドウィグ、冷徹なデニス、女性人格のパトリシアを完璧に演じ分ける。おかげさまで、我々はそれぞれの人格の雰囲気さえ掴んでおけば、筋を取り違える心配をせずにすむ。子供っぽい雰囲気ならデニスと内通しているがスキがあり、女性っぽくなれば話を聞いてくれる余地がある、みたいな感じに覚えられるのである。

 特に難しいのは、社交的なバリーとして精神科医のフレッチャーの元に通う場面だろう。彼はバリーではなく、バリーを演じるデニスを演じなくてはならない。つまり、社交的な態度を演じる、潔癖症で強迫観念の強い人を演じなくてはならない。これは、相当に難しい。しかしこれのおかげで、フレッチャーが彼をデニスと見破るところで、我々も「やっぱり、そうだったよな!」と納得できるのである。

考察・感想

トラウマのある純粋な者

 解離性同一障害はトラウマが原因だった。ケビンの24番目の人格であるビーストは、女子高生三人の生贄を必要としている。マルシアとクレアは必死に逃げようとするのだが、ビーストによって無残にも殺害されてしまう。

 しかし、ケイシーだけは違う。ケイシーに二発も弾丸を打ち込まれても怯まないビーストは、ボロボロになった服の隙間から現れた切り傷に覆われたケイシーの皮膚をみて、彼女に似たものを感じる。ビーストの目的は自分たちの存在を世界に知らしめることなのだが、それは大袈裟に言えば、想像を絶するようなトラウマの存在を世に問いかけたいということだろう。だから、ケイシーの傷に自分と似たトラウマをみたビーストは、彼女のことを「純粋な者」と言うのだ。

 斬新な点が一つある。それは多重人格という設定に「超能力」を組み込んだことだろう。多重人格までなら現実にもあることなのだが、本作の多重人格では、それぞれの人格によって性格だけでなく体型にも変化が現れる。ジェイドという人格は、糖尿病に罹っていてインスリンが必要、といった具合に。さらに顕著なのは、もちろんビーストである。人格がビーストになると筋肉が尋常でなくなり、壁をよじ登ったり、信じられないほどの速度で走ることができるようになる。この「超能力」という設定によって、前作の『アンブレイカブル』とつながることになる。最後に登場する『アンブレイカブル』の主人公であるデヴィッド・ダンは、ビーストをニュースで知ることで、「超能力」があることを確信するのである。

 人格が入れ替わるとき、扉の向こうに毎回隠れるので、他人の目があるところではできないのかと思ったのだが、それは杞憂だったようだ。ケビンがビーストから主導権を取り戻したあと、再びビーストに父られる手前で、いくつもの人格が瞬時に入れ替わる。これまた演技としては相当難しそうだ。血管が浮き上がったり、筋肉が盛り上がったり、演技と特殊メイクの限界を超えているのではないか、と思われる場面も多々あった。とにかく、ジェームズ・マカヴォイの演技が凄かった。これに尽きる。

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