『モルグ街の殺人』あらすじ解説|内容考察|感想

『モルグ街の殺人』あらすじ解説|内容考察|感想

概要

 『モルグ街の殺人』はエドガー・アラン・ポーの短編小説。1841年に発表。エドガー・アラン・ポーは1809年に生まれ、1849年に亡くなったアメリカの小説家。

 『モルグ街の殺人』は不可解な事件を天才的な探偵が解決する推理小説。小説史上初めての推理小説と言われる。シャーロック・ホームズは本作のオーギュスト・デュパンが原型と言われる。

 ポーは他に『ウィリアム・ウィルソン』(1839年)や『黒猫』(1843年)が有名。

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登場人物

:語り手。デュパンの相棒であり同居人。

オーギュスト・デュパン:私立探偵。天才的な頭脳で、警察が手も足も出ない難事件を解決に導く。

レスパネエ夫人:事件の被害者。カミイユの母。殴打された痕と剃刀で斬られた痕を残して、中庭に倒れていた

カミイユ・レスパネエ:事件の被害者。レスパネエ夫人の娘。煙突にささった状態で発見される。

水夫:渡航中にオラウータンを捕獲し、売却目的で本国に連れてくる。

あらすじ

 パリのモルグ街に、レスパネエ夫人と娘カミイユ・レスパネエが住んでいた。ある夜、彼女たちの部屋から悲鳴が聞こえたので警官や住人がなかにはいると、煙突に頭を逆さにして突っ込まれているカミイユの遺体と、中庭に頭部がおちたレスパネの遺体が発見される。どちらも人間業とは到底思えない力技であった。

 その後、新聞に近隣住人の多くの証言や状況証拠が掲載される。その証言というのは、例えば、複数人の声を聞いた、片方はフランス人だった、男女の区別はつかなかった、誰にも気づかれずに逃走する経路はない、金目のものは盗まれていない、といったものだった。

 一見すると証言のいくつかは矛盾するものであり、また不可能な犯罪のように思われた。したがって多くの証言がありながら、パリ警察は事件を解決できずにいた。

 わたし(語り手)は、私立探偵のオーギュスト・デュパンと一緒に暮らしていて、彼の推理を聞くことになる。デュパンは警察の操作方法を否定し、みずから現場を調査したあとは、新聞社に立ち寄り翌日まで何もせず過ごす。

 デュパンは新聞に掲載された証言から真相を探る。注目すべきは、どの人も声の証言が曖昧なこと。逃走手段として可能な経路は、通常なら難しそうな窓からしかないこと。さらに、金銭が目的でないこと。強靭な力で反抗が行われていること。これらの証言は確定していることであり、一見無理に見えそうでも、この証言に沿うように犯人を推理しなくてはならない。

 そこでデュパンは私に、オラウータンの特徴について書かれた記事を見せる。すると犯行現場の特徴に一致していることが判明する。デュパンは犯人はオラウータンだと推理し、オラウータンを捕まえたので持ち主は取りにきてくれ、という記事を新聞に掲載していた。そしてデュパンは、持ち主は水夫であり、オラウータンを売ってお金を得たいため、事件の噂がおさまるまで様子見をしているのだろうと予測していた。

 新聞に掲載された記事を見て、デュパンらのもとに水夫が訪れオラウータンの持ち主だと言う。デュパンは事件の真相を語れと言うと、一悶着のあとに、水夫は真相を語る。

 水夫は航海の途中でオラウータンを捕獲。だが、事件当時の夜に、オラウータンは剃刀を持って脱走し、そのままレスパネエらの家に侵入、殺人事件をおこす。水夫が訪れたときには犯行後であったが、水夫をみたオラウータンは罰を恐れ、部屋を荒らし、カミイユを煙突に突っ込み、レスパネエを中庭に投げて、証拠隠滅を図る。そして水夫が近づくと逃げ出すのだった。

 証言者が聞いたフランス語というのは水夫のものだった。こうして事件の真相は暴かれた。オラウータンは水夫によって捕獲され、植物園に売却された。

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解説

推理小説における3つの要素

 『モルグ街の殺人』では、これに続く推理小説という広大なジャンルの魅力的な約束事をいくつも挙げている。ここでは、「密室殺人」「意外な犯人」「名探偵と相棒」の三つを指摘しておこう。

 まずは「密室殺人」。『モルグ街の殺人』が世界初の推理小説のであることは有名だが、同時に密室殺人をあつかった史上初の作品でもある。「密室殺人」という設定が、如何に作家の想像力を刺激し、読者の推理欲求に応えてきたかは、『モルグ街の殺人』が執筆されてから約170年後の今日の推理小説を読めば一目瞭然だろう。

 次に、意外な犯人。のちの推理小説では、内容を熟読すれば犯人が事前にわかる、あるいは事件の種明かしの前に犯人を登場させることが多くなる。『モルグ街の殺人』では、どれだけ熟読しても犯人をオラウータンと断定することは難しいだろう。だが、デュパンのように無意識の仮定をとりのぞけば、犯人が人間でないことまでは推理できるかもしれない。そして犯人が意外であればあるほど、謎が暴かれたときの快感は増大されるのである。このオチの出来栄えは、作品の評価に大きくかかわる。オラウータンは評価が分かれるところだ。しかし推理小説の一発目にして、この犯人をだしたために、推理小説のポテンシャルはグンと上がったことだろう。

 最後に、名探偵と相棒。『モルグ街の殺人』では相棒は、私であり語り手である。私は名探偵の推理を聞く立場であり、ときには援助する。名探偵と相棒の推理小説は、この後、『シャーロックホームズ』にも受け継がれていて、ホームズとワトソンくんの名コンビの魅力はいつまでも色褪せることはない。ほかにも、『相棒』の杉下右京と亀山薫の名コンビも、元を辿れば『モルグ街の殺人』のコンビにいきつく。

 これらの特徴は、推理小説(探偵小説)においていまでは欠かせない要素なのだが、それが最初の推理小説である『モルグ街の殺人』ですべて登場していたことは驚くべきことだろう。ポーは推理小説というジャンル(本人は「detective fiction」でも「mystery fiction」でもなく「ratiocinative fiction」と呼んでいた)を開拓しながら、そのジャンルに特徴的な想像力に必須な要素まで開発していたのである。

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考察

推理小説と「読むこと」

 小説を読むとき、人は常に「読解」をしている。例えば、文章としては書かれていない部分を想像で埋めたり(受容理論とは何か*なるほう堂)、「裏に隠れたテーマ」を読み取ろうとするのが一般的なのだが、推理小説の読み方は一風変わったものになる。

 手がかりは読者に与えられていて、それを使って真犯人を推理する。このとき、真犯人=「裏に隠れたテーマ」という図式は必ずしも成り立つわけではない。「裏に隠れたテーマ」は、作者によって明かされる必要はない。もっと踏み込んで言えば、作者によって想定される必要もない。小説の中に「構造」や「無意識」が発見されて、そこに「裏に隠れたテーマ」をみることもありえるのである。

 だが推理小説は、最後に種明かし(=真犯人や犯行手順と動機の暴露)が絶対にある。読者は小説のなかに書かれた手がかりから犯人を推測し答え合わせをすることで、難問を解いたときのような快楽と開放感が得られるのである。

 これは「読むこと」の新たな方法でもある。一般的には読者に想像力を使わせる文章の方が、文学性が高いと言われ評価されることが多い。例えば、芥川龍之介の『羅生門』のラスト「下人の行方は、誰も知らない」は、下人の将来を断定せず読者に委ねることで、想像を促し何とも言えぬ読後感を与えることに成功している。推理小説は一般的な小説とは真逆で、想像よりも推理を促し、答え合わせの快楽で作品の良し悪しが決まるのである。

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